マッチングアプリを始めた頃から緩やかに何の意味も持たない “経験人数” だけが増えていった【神野藍】『私をほどく〜AV女優「渡辺まお」回顧録』
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第7回
【一つ上の恋人ができたときに強く思ったこと】
季節は巡り、クリスマスを迎える少し前に、一つ上の恋人ができた。私が欲しいと言ったピアスのために日払いのアルバイトを始めるような人だった。恋人ができた喜びよりも「もう誰か適当に探さなくて良いんだ」という気持ちの方が強く、ある種の平穏を手に入れたような気がしていた。
二年生に進級してすぐの頃、インターン先の組織体制が変わり、徐々に周りのメンバーが辞めさせられていく中で、私だけがグループ会社に移動することになった。それからの日々は忙しなく過ぎていった。社員と変わらない仕事量と裁量権を渡され、くらいついていくのに必死だった。そのころぐらいから仕事にのめり込んでいくようになった。
友人との飲み会に行く回数は減っていったし、恋人からは寂しさが乗じたのもあるだろうが、「たかがインターンなのに、そんなに必死になる必要がある?」なんて言葉をかけられるようになった。それでも別に気にしていなかった。働いた分だけ自分のできることが増えていって、成果をきちんと出すと評価もあがる。きちんとそれに見合う分の報酬はもらっていたし、それに加えて、少々無理をしても大丈夫なくらい身体が丈夫だったのもあって、一日中頑張り続けるのも苦ではなかった。
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✴︎KKベストセラーズ 新刊発売決定✴︎
神野藍 著『私をほどく〜 AV女優「渡辺まお」回顧録〜』
が6月17日に発売決定・予約開始!
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「元エリートAV女優のリアルを綴った
とても貴重な、心強い書き手の登場です!」
作家・鈴木涼美さんも絶賛した衝撃エッセイが誕生
✴︎目次✴︎
はじめに
#1 すべての始まり
#2 脱出
#3 初撮影
#4 女優としてのタイムリミット
#5 精子とアイスクリーム
#6 「ここから早く帰りたい」
#7 東京でのはじまり
#8 私の家族
#9 空虚な幸福
#10 「一生をかけて後悔させてやる」
#11 発作
#12 AV女優になった理由
#13 セックスを売り物にするということ
#14 20万でセックスさせてくれませんか
#15 AV女優の出口は何もない荒野だ
#16 後悔のない人生の作り方
#17 刻まれた傷たち
#18 出演契約書
#19 善意の皮を被った欲の怪物たち
#20 彼女の存在
#21 「かわいそう」のシンボル
#22 私が殺したものたち
#23 28錠1シート
#24 無為
#25 近寄る死の気配
#26 帰りたがっている場所
#27 私との約束
#28 読書について1
#29 読書について2
#30 孤独にならなかった
#31 人生の新陳代謝
#32 「私を忘れて、幸せになるな」
#33 戦闘宣言
#34 「自衛しろ」と言われても
#35 セックスドール
#36 言葉の代わりとなるもの
#37 雪とふるさと
#38 苦痛を換金する
#39 暗い森を歩く
#40 業
#41 四度目の誕生日
#42 私を私たらしめるもの
#43 ここじゃないどこかに行きたかった
#44 進むために止まる
#45 「好きだからしょうがなかったんだ」
#46 欲しいものの正体
#47 あの子は馬鹿だから
#48 言葉を前にして
#49 私をほどく
#50 あの頃の私へ
おわりに